ヒスタミン放出に「DOCK5」が深く関わっていた?

ヒスタミン放出に「DOCK5」が深く関わっていた
国民の半数近くが花粉症やアトピー性皮膚炎、食物アレルギー、気管支喘息などの何らかのアレルギー症状に苦しんでいる中、これらのアレルギー症状を根本から取り除くための「根治療法」の開発に多くの人々が期待を寄せています。

 

そんな中、先日(2014年6月9日)、九州大学の生体防御医学研究所の福井宣規教授らの研究グループにおいて、人がアレルギー反応を起こす際に「DOCK5」というタンパク質が極めて重要な役割を果たしていることを突き止め、米科学誌に発表しました。

 

その内容とは一体どのようなものなのか、また今後の展望などについて詳しく調べてみました。

 

花粉症はアレルギーの一種

 

まず最初に、人がアレルギーを引き起こすメカニズムについておさらいしておきましょう。

 

人には「免疫反応」という機能が備わっており、この免疫反応自体は外からの異物侵入を防ぎょするための無くてはならない生理機能ですが、それがある特定の抗原(アレルゲン)に対して過剰に反応することによってさまざまな症状を引き起こし日常生活に支障を来すのが「アレルギー」という疾患です。

 

これらアレルギーのうち、花粉症やアトピー性皮膚炎を引き起こす「T型アレルギー」の発症メカニズムについて、スギ花粉を例に説明します。

 

 

@体内への侵入
花粉症の抗原(アレルゲン)であるスギ花粉が、口や鼻、目の粘膜に付着するなどによって体内に侵入します。

 

A抗体の量産
スギ花粉から溶け出したアレルゲンは、マクロファージと呼ばれる細胞に取り込まれ、「身体に害を及ぼす物質」として認識されます。
そしてその情報に基づきBリンパ球と呼ばれる細胞からアレルゲンに対抗する抗体として「IgE抗体」が量産され始め、産生されたIgE抗体は肥満細胞(マスト細胞ともいう)と結合されます。

 

B抗体の蓄積と感作
このようにしてスギ花粉(アレルゲン)が体内に侵入する度にIgE抗体と結合した肥満細胞が増加していき、鼻の粘膜などに蓄積されていきます。
そして、ある一定レベルを超えたとき、「感作が成立した」といわれ、次からの侵入に対してはアレルギー反応で対抗する準備が整った状態になります。

 

Cアレルギー反応の発現(発症)
感作が成立した後に、再びアレルゲンが侵入してくると、肥満細胞内にあるヒスタミンやロイコトリエンなどの化学伝達物質(ケミカルメディエーター)が放出され、これらの化学伝達物質がアレルゲンを外に排除しようとしてく各部位に刺激を起こします。
これが花粉症の症状である「くしゃみ」や「鼻水」、「鼻詰まり」、「目のかゆみ」などを発症させるのです。

 

花粉症発症のメカニズム

 

 

以上のようなメカニズムによってアレルギー反応(症状)が起こることは既に解っていますが、今回、九州大研究グループによって解明された「DOCK5」の働きというのは、一体どの部分、どの過程に関係するのでしょうか。

 

 

実は、肥満細胞からヒスタミンなどの化学伝達物質が放出される際の細かな仕組みとして、肥満細胞内の「分泌顆粒」と呼ばれる物質が細胞にある「微小管」と呼ばれる管を通じて放出され、分泌顆粒からヒスタミンなどの物質が放出されることは知られていました。

 

しかし、その過程において「DOCK5」と呼ばれるタンパク質が発現することに着目し、「DOCK5」が分泌顆粒放出の際に何らかの役割を果たしている可能性があるとして解析を始めたのです。

 

DOCK5のマウス実験

 

解明実験としてはマウスを用意し、一方は正常なマウス、もう一方は「DOCK5」が発現出来ないように遺伝子操作を施したマウスによりアレルギー反応を比較してみたところ、「DOCK5」が発現しないマウスの方はアレルギー反応を起こすヒスタミンの放出が極端に抑制されることが判明したのです。

 

さらにその作用を詳しく調べていくうちに、「DOCK5」が肥満細胞内で分泌顆粒を運搬する微小管の形成に大きな役割を果たすことを突き止めたのです。

 

すなわち、DOCK5の発現によって分泌顆粒を運ぶ「微小管」が作られるということは、逆を返せばDOCK5の発現を抑制することによってアレルギー症状を抑制出来る可能性が高いということです。

 

現在、アレルギー疾患の対症療法して、ヒスタミンの働きを抑える抗ヒスタミン剤などが主流とされています。

 

また、今のところ根治療法としては「舌下減感作療法」と呼ばれるものが注目を集めていますが、今回の研究成果であるDOCK5の作用は分泌顆粒(ヒスタミン)の放出そのものに関与しているため、これを抑制する方法を編み出せば「アレルギー反応」を根本から断つことが期待できます。

 

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研究グループ主任の福井宣規教授は「免疫細胞でDOCK5の機能が判明したのは今回が初めて。DOCK5の働きを抑制するなど、アレルギー発症そのものを防ぐ新薬の開発につながる可能性がある」と期待しているそうです。

 

花粉症の根治療法を目指して!この研究成果が果たして実を結ぶのか、いつ頃、どんな形で実を結ぶのか、など、まだまだ予想することは出来ませんが、いずれにしても、花粉症やアトピー、喘息、食物アレルギーなどのアレルギー症状で苦しんでいる多くの患者さんにとっては、新しい発明・発見により根本的な解決に繋がることを心の底から期待しているのです。