無花粉スギ 「はるよこい」とは?
花粉症の原因花粉の中で最も多いのが「スギ花粉」であることは周知のことと思います。
そしてその要因として戦中・戦後の国の政策による大量の森林伐採とそれを補うためのスギ苗の大量植林が背景にあります。
戦後の復興対策とは終戦直後から始まったスギの植林によりスギの樹木がおおよそ30年後の1970年代中盤あたりから大量の花粉を放出するようになりましたが。それからさらに40年後の現在、花粉の飛散量は衰えることなく今も続いています。
ところでこのスギ花粉の大量放出はいったいいつまで続くのでしょうか。
樹木というのは基本的に「寿命」という概念はなく、環境によって左右されますが、スギの場合だと平均して概ね300年〜500年といわれています。
ただし環境の良い土地で育った例では、樹齢1,000年以上のスギも数多く存在します(世界文化遺産として有名な屋久島に生息する屋久杉は樹齢2,000年以上のものまで存在します)
いずれにしてもこれらのことを踏まえると、スギ花粉の大量放出はこれから少なくても数十年は続くと予想できます。
これだけ大量のスギ花粉が飛散する原因は圧倒的なスギ樹木の個体数にあります。
ですからスギ花粉の量を減らすためには、スギ林を少なくしなければなりません。いわゆる「伐採」をする必要があるということです。
しかし、スギ林の伐採には多くの労力と資材が必要ですし伐採したスギを木材として加工・販売するためには多大なコストが掛かりますので、なかなか進まないのが現実です。
そのような状況の中、政府は少しずつではありますが、さまざまな花粉症対策に取り組んでいます。
具体的にどういった取組みかというと、省庁別に分かれています。
たとえば環境省は花粉飛散予測及び観測を行っていますし農水省ではスギ花粉等の飛散量の推定を行っています。
文科省と厚労省では主に花粉症の原因究明を、さらに文科省、厚労省、農水省の3省が連携して花粉症の予防や治療法の開発と普及を行っています。
これらの取り組みの中でとても興味を引く項目を見つけました。
それは、「花粉症対策品種の開発・普及」及び「花粉の少ない森林への転換等の促進」という取り組みです。
いずれも農林水産省が担当している項目で、内容としては
・無花粉スギの開発を進め、少花粉スギ等の苗木の供給量を増大させるための生産体制の整備
・花粉症対策苗木の利用拡大に向けた森林所有者等に対する普及指導
・首都圏近郊を中心とした花粉の多いスギ林から少花粉スギ林や広葉樹林等への転換
というものです。
まさにスギ花粉量のダイエット対策となるもので、これが推進されれば少しずつでも花粉量の減少に繋がる可能性がありますよね。
ところで「無花粉スギ」というものがどういったものなのかを調べてみました。
農水省の情報によると、花粉症対策の一環として以前から花粉の少ないスギ種の開発・研究を続けていた折、平成4年(1992年)の年、富山県農林水産総合技術センター森林研究所において全く花粉を飛散させない「無花粉スギ」を発見したというものです。
発見のきっかけは、スギ花粉情報を出す目的で標高別に5か所に植えてあったスギ林の開花試験の調査をしていた際、たまたま観察地点の一か所である神社の境内にたった1本だけ花粉を出さないスギを見つけたというのです。
これは全国で初めての奇跡的な発見であり、将来の花粉症対策の切り札として注目を集めています。
この無花粉スギは、外見上は普通のスギと全く変わらず、花粉を出す雄花も同様に形成されているのですが、雄花が開花する2月下旬から3月上旬の時期になっても一向に雄花に花粉が付かないのです。
ただし雄花の機能は異常なのに種子を作る雌花の機能は普通のスギと同様に正常でということで、この特異な性質が種から育った次世代のスギに遺伝するかどうかが最大のポイントでした。
そして実際に発見された最初の無花粉スギから取った種子で苗を育て、花粉の有無を調べてみたのですが、無花粉の性質を持った苗が数多く育ち、無花粉スギの遺伝が確認されたのです。
その後も無花粉スギをもとにさまざまな交配を重ね品種改良が進めれれ、平成16年に新品種が開発されました。
無花粉スギは花粉症の救世主?新品種の無花粉スギの名称は「はるよこい」と名付けられました。
はるよこいの特徴は「花粉がない」こと、さらに「さし木の発根能力が高い」というものです。
無花粉スギはすでに都市部の緑地をはじめ森林植樹にも植樹が始まっています。
今後も品質改良を続け、とにかく大量のさし木苗を安定的に確保できる量産体制を整える予定ということです。
一方、はるよこい以外の無花粉スギの開発や無花粉ヒノキの開発も進められています。
とにかく、まだ始まったばかりの取り組みですが、将来の「花粉症のない暮らし」を目指してしっかりと進めてほしいものです。