アニサキス症の痛みは単に刺された痛さではなかった?

 

アニサキス症の代表的な症状である「劇症型胃アニサキス症」の場合、魚介類を生で食べたあとに、魚介類に寄生したいたアニサキス幼虫が胃の壁に刺さり激しい腹痛を起こす病気です。

 

この痛みの原因は、アニサキス幼虫が胃の粘膜に刺さった際機械的なの痛み(刺痛)と考えられていました。

 

アニサキス症はアレルギー反応である

 

しかし、単にアニサキス幼虫が一匹胃に刺さっただけで、あれだけの激しい痛みが現れるのは少し疑問です。

 

アニサキス幼虫自体に毒素はありませんので、ハチに刺される場合とは相当違いがあります。

 

アニサキス症の痛みの原因についてさまざまな研究を重ねた結果、近年になってようやく痛みの原因が新たに分かってきました。

 

実はアニサキス症の痛みの原因は、なんと“アレルギー反応”によるものだったのです。

 

そもそもアレルギー反応とは?

アニサキス症の痛みの原因は、単にアニサキス幼虫による胃粘膜の刺痛ではなく、アレルギー反応によるものであることが、近年になって判明しました。

 

痛みの具体的なメカニズムについて解説する前に、「アレルギー反応」についてあらためておさらいしておきます。

 

 

“アレルギー反応”とは、いったいどのような反応をいうのでしょうか。

 

端的にいうと「異常な免疫反応」のことをいいます。

 

私たちの体には、ウイルスや細菌などの人に害を与えるような異物が体内に入ってきた場合に、これら外敵を撃退したり排除しようとする「免疫」という仕組みがもともと備わっています。

 

かゆみもアレルギー反応のひとつ

 

免疫という仕組み自体は、人間が生命を維持したり健康に生活していくために重要な役割を持つ機能であることは間違いありません。

 

ところが、本来私たちの体に無害であるはずの食べ物や花粉などの侵入に対しても、この免疫機能が過剰に働いてしまい、身体にとってマイナスな症状を引き起こしてしまうことがあります。

 

そのような過剰な反応のことを「アレルギー反応」と呼びます。かゆみやくしゃみなんかもアレルギー反応のひとつです。

 

本来は私たちの体を守るはずの免疫機能が、自分自身を苦しめる「アレルギー反応」に変わる可能性があるのです。

 

 

アレルギーの原因となる物質を「アレルゲン」または「抗原」といいます。

 

私たちの身のまわりには、アレルゲンとなり得る花粉やダニ、ハウスダスト、食べ物、薬物など、多くの物質が存在していて、どのアレルゲンに反応するかは人によって違ってきます。

 

アレルギー反応を誘発するアレルゲンはたくさん!

 

アレルゲンが初めて体内に侵入したときには反応せずにそのまま受け入れますが、その際に体内でアレルゲンに対抗するための「抗体」という物質が作られます。

 

「IgE抗体」と呼ばれるもので、ある一定量が蓄えられるまでは反応は現れませんが、その一定量を過ぎると、IgE抗体が皮膚や粘膜などに存在するマスト細胞と反応し「ヒスタミン」や「ロイコトリエン」といった化学物質が放出されます。

 

このヒスタミンなどの物質が、アレルギー反応を起こす原因のもととなるのです。
(アレルギーの詳細に関しては、「花粉症対策全集ー発症のメカニズム」も参考になります)

 

アニサキス症の痛みはアレルギーが関係している?

これまで「アニサキス症の痛みの原因は、アレルギー反応によるものである」というお話をしてきましたが、具体的にはどのようなメカニズムでアニサキス症の痛みが起こるのでしょうか。

 

 

実は、アニサキス幼虫が初めてヒトの体内に入ったときには、症状が出なかったり、出たとしても軽症で済んだりしています。

 

このとき、アニサキスをアレルゲンとした「抗体」というものが体内に作られます。

 

そして、2回目以降になると、アニサキス抗体が反応し、アレルギー反応の一つとして「激しい腹痛」という形で現れていると考えられます。

 

アレルゲンから身を守る抗体

 

また、激しい腹痛以外にも、アレルギー症状である下痢や嘔吐、唇や舌のはれ、皮膚のかゆみやむくみ、じんましんや呼吸困難なども起こる場合があります。

 

最悪の場合、血圧降下や呼吸不全、意識障害など、ショック症状を伴う「アナフィラキシーショック」と呼ばれる命に関わる重篤症状に陥ることもあります(よくスズメバチに刺された人がなる症状です)。

 

このようにアニサキス症のうち、少なくとも劇症型に関しては「アレルギー反応」と捉えることが医学界の常識となっており、その証拠となる研究結果が数多く確認されています。

 

 

アニサキス幼虫はヒトの体内で長く寄生することは出来ず、せいぜい1週間程度で死滅して排泄されるか吸収されてしまいますので、そのまま放っておいてもアニサキス症の症状は4〜5日程度で解消されるといわれています。

 

アナフィラキシーショックはいt後に関わる症状

 

しかしながら激しい腹痛が伴う場合は、アレルギー反応の中でも最も重い「アナフィラキシー症状」が現れているものと考えられますので、放っておいては危険です。
(詳しくは「アニキサス症を放置すると?」を参照)

 

必ず内視鏡検査が可能な専門の医療機関に受診してください。
(救急車を呼ぶかどうかの判断については「アニサキス症になったら救急車?」を参照)

 

アニサキス症状の原因はアレルギー反応ですので、他の食物アレルギーと同様に体質によってアニサキスアレルギーが出る人と出ない人がいます

 

アレルギー反応が出る人は、初めてアニサキス幼虫が体内に入ったときは無症状であっても、2回目以降から重症反応(劇症型)を起こす可能性があるります。

 

また、一度でも劇症型アニサキス症を起こしている人は、次以降も劇症型アニサキス症になることを覚悟したほうがよさそうです。

 

 

※“サバアレルギー”と言われている人は、実はサバ自体のアレルギーではなく、アニサキスアレルギーの可能性が高いことが近年になって判ってきました。

焼いた魚でもアニサキス症になる?

アニサキス症の症状が、アニサキス幼虫をアレルゲンとする“アレルギー反応”であれば、生きたアニサキス幼虫でなくてもアレルギー症状が出る可能性があるのでしょうか。

 

実はそのとおりで、死んだアニサキス幼虫でも体内に入ればアレルギー症状を引き起こすことがあります

 

魚を焼いてもアニサキス症になる?

 

そうなると、アニサキス幼虫が寄生する魚をいくら熱処理しても冷凍にしても、食べると症状が出る可能性があるということになります。

 

実際に『アニサキスアレルギーになってから、魚を一切食べられなくなった』という人は実在します。

 

ただし、人によって過敏反応の程度に違いがありますので、常に重症化するとは限りません。

 

いずれにしても、“アニサキスアレルギーの人は、魚介類を食べる際には細心の注意が必要”ということです。