アニサキス症が増えた理由とは?
近年になってアニサキス症が急激に増えた理由は、主に次のような点が影響していると考えられます。
1.統計上の理由
ここ近年になって、統計的もアニサキス症が急激に増加していますが、その理由は2012年(平成24年)に法律が改正され、アニサキス症例の国への報告が義務付けられたからです。
別の言い方をすれば、「統計上は増えているが、以前から多かった」、「以前は報告義務がなかったから、(アニサキス症例が多くても)認識されていなかった」ともいえます。
2.低温流通技術の発達
生鮮食品の低温流通システムの発達により、遠隔地で水揚げされた新鮮な生の魚介類を容易に食べることが可能になったことも、ある意味、アニサキス症増加の要因と考えられています。
以前は庶民にとって“高根の花”であった新鮮な魚介類のお寿司やお刺身も、スーパーなどで低価格で購入することが出来るようになった反面、アニサキス症になる確率は高まっています。
3.自分で釣った魚を食べる
釣りブームも影響して、趣味で海釣りに出かけ釣った魚を自ら生で調理する人が増えています。
釣り場から自宅へ戻る際も、そのまま何もしないか、せいぜい氷で冷やす程度の場合が多いので、魚が死んだ後に内臓にいたアニサキス幼虫が身に移動している可能性が高くなります。
そして自ら調理する際に、アニサキスのチェック怠ったためにアニサキス症になった人が結構いるのです。
統計上の理由とは?
一つ目の“統計上の理由”について、もう少し詳しく解説します。
1999年(平成11年)12月に行われた食品衛生施行規則の一部改正に伴い、「食中毒事件票」の記入要領となる“食中毒統計作成要領”も一部改正され、食中毒病因物質の分類(別表2)の「その他」の例示として“アニサキス”が掲載されました。
つまり、今までは食中毒と認識されていなかった「アニサキス」は食中毒に該当するということを示したことになりますが、まだこの時点でアニサキス症例の報告数が急激に増えたわけではありません。
そして、13年後の2012年(平成24年)12月に、同じく食品衛生施行規則が一部改正され、今度は食中毒事件票(様式)の食中毒病因物質の分類欄に“アニサキス”が項目として追加されたのです。
例えるなら、ここで“アニサキス”という病気が食中毒界でメジャーデビューを果たしたことになります。
厚生労働省が示している「食中毒統計作成要領」によると、『食中毒被害者の発生状況を的確に把握し、複雑な発生状況を解明するために食中毒事件票等を作成し・・・』となっており、食中毒事件票は重要な役割を果たしています。
参考までに、食中毒事件票に関する手続きの流れは以下のとおりです。
1.医師の義務
食中毒患者等を診断し、又はその死体を検案したときは、24時間以内に最寄りの保健所長に文書、電話又は口頭で届出を行う義務があります。
2.保健所の義務
(1)実態の把握
医師からの届出により対象を把握します。もし保健所の職員が未届の食中毒事件を発見した場合は、診療又死者を検案した医師に対し届出を行わせます。診療している医師がいない場合は、医師資格のある職員が診断し届出を行う必要があります。
(2)最寄りの保健所へ移送
医師から届出を受けた「最寄りの保健所」は、食中毒患者等がいる管轄の保健所へ届け出書のコピーを移送しなければなりません。
(3)調査票の作成
医師からの届出を受理し、または移送を受けた保健所は、「食中毒調査票」を作成しなければなりません。
(4)調査票の移送
食中毒の原因となった家庭や業者、施設等の所在地が管轄外にある場合は、管轄する保健所に調査票を移送しなければなりません。
(5)食中毒事件票の作成
ここでやっと「食中毒事件票」の出番です。結局、これを作る義務があるのは、食中毒事件が発生した所在地を管轄する保健所になります。
管轄する保健所は、調査票と併せて事件のあった家庭や業者、施設等を調査し、食中毒事件票を作成し管轄する都道府県に報告しなければなりません。
3.都道府県の役割
都道府県は、各保健所から報告された食中毒事件票を取りまとめ、「食中毒事件調査結果報告書」というものを作成し国に報告しなければなりません。
4.国の役割
匡(厚生労働省)では、これらの報告をもとに、食中毒の実態についてさまざまな形で統計にするとともに、国民や事業者、施設等に対し、食中毒事故を防止するための広報や注意喚起をしています。
低温流通技術の発達
2つ目が“低温流通技術の発達”です。
“魚介類は生が一番美味しい”といわれますが、これは多くの人が実感しています。
日本は海に囲まれ海洋漁業が盛んな国ですので、昔から魚介類を食べる食文化が定着してきました。
また、それらの魚介類をなるべく美味しく食べるための保存技術、とりわけ冷凍技術が急速に進歩してきました。
近年では冷凍技術の飛躍的に進歩したので、冷凍しても味や鮮度が落ちにくいといわれていますが、やはり生の魚介類にはかないませんよね。
そこで開発されたのが、魚介類を冷凍せずに鮮度を保ったまま輸送する仕組み、すなわち低温流通技術の発達です。
ただし、需要と供給のバランスを確保するためには、採算性が最も重要ですので、いかにコストを抑えて流通できるかなど、決して容易なことではありません(※低温流通技術の詳細は割愛します)。
これら低温流通システムの発達により、遠隔地で水揚げされた新鮮な魚介類を生の状態で容易に食べることが可能になったことも、アニサキス症増加の要因と考えられています。
以前は庶民にとって“高根の花”であった新鮮な魚介類のお寿司やお刺身も、スーパーなどで低価格で購入することが出来るようになった反面、アニサキス症になる確率は高まっています。
自分で釣った魚を食べる
今は生鮮食品の流通が当たり前となり、スーパーなどで食べたい魚介類をすぐに買うことが出来るようになりましたが、日本では昔から自分で釣って自分で食べる「釣り」というものを趣味として楽しむ文化がありました。
近年では映画「釣りバカ日誌」や「THEフィッシング」、「釣り百景」など、釣りをテーマにしたテレビ番組が相変わらず人気を集めており、以前ほどではないにせよ今でも日本全国の釣り人口は500万人を越えています。
そして釣りを楽しむ人の多くは、単に釣果を楽しむだけでなく自ら魚を調理して食べる人が大半です。
自分で釣った生の魚を新鮮なうちに自分で調理して食べることは、とても贅沢なことであり、羨ましい限りではありますが、刺身など生で食べる場合は相当の注意が必要です。
これまで解説してきたとおり、多くの魚にはアニサキス幼虫が寄生している可能性が高く、魚が死んだ後に内臓にいたアニサキス幼虫は筋肉(身)の方へ移動していきます。
ですから、海で魚を釣った後に自宅へ戻る間にアニサキス幼虫の移動が始まり、自宅で魚をさばく頃には既にアニサキス幼虫が身に潜入していると考えたほうがよさそうです。
釣りで疲れて帰ってきた後に、陽も沈み夜になって魚をさばくことが多いと思われますので、そんな中でアニサキス幼虫をしっかりと見つけ出すのは容易ではありません。
せっかく釣った魚を刺身にして食べた数時間後、急に激しい腹痛に襲われる・・・そんな状況が起こらないとも限りません(現にたくさん報告されています)。
ですから、自分で釣った魚を自分や家族、友だちと食べる場合は、生は避けるようにして必ず火を通して食べるようにしましょう。