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バッチテストの概要

 

“バッチテスト”は、プリックテスト・スクラッチテスト、皮内テストと同じく「生体検査」に分類されますが、ほかの検査がおもにT型アレルギー(即時型)のアレルゲンを検索するのに対し、パッチテストの場合はW型アレルギー(遅延型)のアレルゲンの検索に用いられます。

 

アレルギー検査ーパッチテスト

 

原理は簡単で、生体(皮膚)の上に原因アレルゲンを貼付して、実際にアレルギー反応(主にかぶれ症状)が現れるかどうかを見る検査です。

 

パッチテスト接触アレルギー薬剤アレルギー(薬疹)の判定に有効で、特に“接触皮膚炎(かぶれ)”の症状を持つ患者さんのアレルゲン判定には最も有用な検査といわれており、信頼性が高く実施頻度も高い検査のひとつです。

 

アレルギー性接触皮膚炎は通常、アレルゲンに触れてから1〜2日程度経ってから症状が現れはじめますので、検査結果はそれと同様の時間経過を見ながら判断します。

 

患者さんに原因として疑われるアレルゲンを持参してもらい、それらを適正な濃度に調整したり、そのままの状態皮膚に貼って調べます。

 

 

また、市販のパッチテスト試薬を用いて検査することもできます。

 

パッチテストには、「閉鎖貼付試験(アレルゲンを染み込ませた布などで被覆する)」や「オープンテスト(アレルゲンを直接塗ったまま被覆しない)」、「光貼付試験(パッチテストの一部に紫外線を照射する)」など、いくつかの種類がありますが、一般的に「閉鎖貼付試験」が多く用いられます。

 

ここでは、「閉鎖貼付試験」を例に解説していきます。

 

 

パッチテストができるアレルゲンの種類

パッチテストは、おもに皮膚への接触によって起こるアレルギー反応を調べる検査ですので、皮膚に接触する可能性がある物質はすべてアレルゲンとなり得るといえます。

 

また、薬疹が疑われる場合は、塗り薬の場合はそのまま使うことができるし、錠剤の場合は薬を細かくつぶして軟膏にするなどして貼付することができるので、基本的にはどんな薬でもアレルゲンとして用いることができます。

 

ただし、灯油ヘアダイパーマ液除毛クリームなど刺激の強い製品の場合は強い炎症を起こす危険性があるので、被覆はしないで皮膚に塗るだけの「オープンテスト」を用います。

 

アレルギー性の接触性皮膚炎の原因となるアレルゲンは何千種類もありますが、一般的には以下のように分類されます。

 

日用品・生活用品

石けん、シャンプー、ヘアダイ、育毛剤、プラスチック製品、ゴム製品、衣類、メガネ、洗剤、柔軟剤、抗菌製品 など
日用品アレルゲン

 

化粧品

下地クリーム、乳液、ファンデーション、化粧水、口紅、マスカラ、アイシャドー など

 

化粧品アレルゲン

植物・食物

ギンナン、セリ科、アブラナ科、キク科、ウルシ科、かんきつ類、健康食品 など

 

植物・食物アレルゲン

金属

コバルト、ニッケル、クロム、水銀、バラジウム など(アクセサリー、腕時計、革製品、コイン、ステンレス、塗料、歯科材料などに含まれる)

 

金属アレルゲン

医薬品

抗菌薬、抗真菌薬、非ステロイド系消炎薬、ステロイド外用薬、点眼薬、消毒薬、潰瘍治療薬、保温剤、坐薬、錠剤 など

 

医薬品アレルゲン

職業性

農薬、酸、アルカリ、フッ化水素、セメント、灯油、過酸化水素、金属、レジン、ゴム、切削油、合成洗剤、消毒薬 など

 

職業性アレルゲン

パッチテストに必要なもの

パッチテストを行うためには、検査に用いる「アレルゲン」と、アレルゲンを皮膚に貼るためのユニット(パッチテストユニット)が必要となります。

 

アレルゲン

持参した物品

パッチテストに用いるアレルゲンは、患者さん自身が“かぶれ”の原因と推定する物品自ら持参してもらい、それらを用いるのが基本です。

 

化粧品や外用薬など、直接皮膚に塗るようなものは、そのまま貼ってテストしますが、石鹸やシャンプー、リンスなど界面活性剤が多く含まれ、洗い流して使用するようなものは、水で1%程度に希釈して貼ります。

 

パッチテスト試薬

アレルゲンの推定が困難な場合や、可能性のあるアレルゲンを幅広く探し出すような場合は、市販されている“パッチテスト試薬”を用います。
トリイパッチテスト試薬
鳥居薬品の試薬(正式名は「トリイパッチテスト試薬」といいます)が一般的で、特に金属アレルゲンの種類が豊富に用意されています。

 

パッチテストパネル

佐藤製薬から発売されている「パッチテストパネル」は、“ジャパニーズスタンダードアレルゲン”(日本皮膚免疫アレルギー学会が選定した日本人で陽性率が高いアレルゲン)を組み合わせた検査ユニットで、12種類のアレルゲンが1枚のパネルに納められ2枚で1セットとなっており合計24種類のアレルゲンを一度に検査することができます(陰性対照用ユニットが各1個ずつ配置されているので、実際には22種類)。

 

佐藤製薬パッチテストパネル

 

なお、パネルには粘着シールが施されており、パッチテストユニットのような貼付用ユニットは必要ありません。

 

※以前、同じ佐藤製薬から発売されていた「パッチパネルテープ」は各アレルゲン試薬ごとに1枚のテープユニットになっていましたが、2017年に経過措置満了のため発売中止となっています。

 

 

パッチテストユニット

持参したアレルゲンや市販のアレルゲン試薬などを皮膚に貼るためのユニットパッチテストユニット)が必要となります。

 

代表的なものとして「フィンチャンバー(SmartPractice)」と「パッチテスタートリイ(鳥居薬品)」の2つの商品があります。

 

フィンチャンバー

フィンチャンバーは、スマートプラクティスジャパンから発売されているパッチテスト用ユニットです。

 

フィンチャンバー

 

アレルゲンを付着させるための溝が5個または10個付いた“チャンバー”と呼ばれるものと、チャンバーを皮膚に貼り付けるためのテープが付いています(これらがあらかじめセットされている製品もあります)。

 

水溶性のアレルゲンを用いる場合は、フィルターペーパー(ろ紙)に染み込ませて使用します。

 

ファインチャンバーシリーズには、オープンテスト用の保護シートが付いていない製品や、耐水性テープを用いた水濡れに強い製品などもあります。

 

 

パッチテスター「トリイ」

パッチテスタートリイも同じくパッチテスト用ユニットのひとつで、5種類のアレルゲンをテストすることができます。

 

パッチテスタートリイ

 

シート状のユニットにアレルゲンを染み込ませるパッドが5つ並んでいて、白いカバー紙をはがしてパッド上にパッチテスト試薬を滴下または塗布します(必要に応じてカットして使用することもできます)。

 

そのまま皮膚に貼った後、残りの白いカバー紙をはがし、最後に矢印の付いたフィルムをはがせば完了です。

 

パッチテストの方法

パッチテストの実施手順

パッチテストユニットに、アレルギーの原因と推定されるアレルゲンなど、検査したいアレルゲンをあらかじめセットしておきます。

 

準備ができたらパッチテストユニットを皮膚に貼り付けます。通常、背中または上腕の外側疾患のない正常な部位に貼り付けます。

 

このとき、“後でアレルゲンの配列が見やすい”ように、背中や腕に対してなるべく垂直に貼るようにします。

 

貼り終わったら、“どこに何のアレルゲンを貼ったか”、後で間違えないように必要に応じてパッチテストユニットの上から各パッドの部分にマーカーで番号や記号などを記入しておきます。

 

パッチテストのマーカー

 

一定期間を経過したらパッチテストユニットをはがしますが、はがす前にユニットの角や切り欠き(マーカーするため、あらかじめ製品に付いているもの。製品によって異なる)などにマーカーで印を付けておきます

 

これはユニットをはがした後に、“アレルゲンがどのような配列だったのか”を間違えないようにするためです。

 

写真を撮って記録しておくのも有効です。

 

 

パッチテストを行う際の留意事項

パッチテストを実施する前に、必ず医師から患者さんに対し、必要な説明を行います。

 

まずはパッチテストの目的方法、パッチテストを行ううえでの留意事項などが主です。

 

なお、パッチテストを実施する場合の留意事項については、以下の通りです。

アレルギー反応を抑える薬(プレドニゾロン、セレスタミンなどのステロイドや抗アレルギー剤、抗ヒスタミン剤、一部の花粉症・喘息の治療薬)を服用すると検査の判定に影響が出るので、検査の数日前から検査終了までは控えること

 

テスト期間中の入浴は厳禁であること(2回目の判定終了後はシャワーの使用は可能であるが、検査部位は洗わないこと)。

 

テスト期間中は、スポーツなどの汗をかく動作は避けること(汗をかくことにより、かゆみや皮疹が出現し正確な判定が困難となる場合があるため)。

 

ブラジャーなど、検査部位に接触するものは判定終了まで着用を控えること

 

・テスト期間中、検査部の皮膚のかゆみが異常に強い場合などは、受診機関に連絡して必要な指示を受けること

 

また、パッチテストを受ける患者さんには、あらかじめ次の点について説明し、同意の上でテストを行うようにします

・パッチテストユニットを貼るテープでかぶれる場合があること。
陽性反応が強く出た場合、湿疹反応に伴うかゆみ赤み腫れ、場合によっては水疱が生じる可能性があること。
陽性反応が強く出た場合、治った後にかさぶた色素沈着が残る場合があること。
・ごくまれに、テストによって感作し、かぶれる体質になってしまう場合があること。

これらの説明は、前段の留意事項などと一緒に「同意書」という形で文書で提示し、患者さんから署名を得るようにします。

 

パッチテストの判定時期と回数

パッチテストの判定は、アレルゲンを貼った時刻の48時間後にパッチテストユニットを静かにはがし、その30分〜1時間後に1回目の判定を行います(テープをはがす際の刺激を緩和するため、一定程度の時間を置く必要があります)。

 

さらに24時間後(アレルゲンを貼った時刻の72時間後)に2回目の判定を行います。そして出来る限り1週間後にも判定します。

 

パッチテストの反応
複数回に分けて判定する理由は、金属などは初期段階で刺激反応が出る場合があり、アレルギー反応と見分けるため、また、分子量の大きい抗生物質や抗炎症作用のあるステロイドなどの場合、陽性反応が3日以上経ってから出ることもあるからです。

 

 

パッチテストの判定基準

パッチテストの判定は、一定期間経過後に皮膚の状態変化により行いますが、その際の判定・評価に用いる「判定基準」というものがあります。

 

※パッチテストの判定基準には「ICDRG基準」(International Contact. Dermatitis Research Group の国際基準)と、日本独自の「本邦基準」の2つが存在しますが、アレルギー反応を判定する場合はICDRG基準が多く用いられます。

 

《ICDRG基準》

判定基準 反応
反応なし
+? 紅斑のみ
紅斑+浸潤、丘疹
++ 紅斑+浸潤+丘疹+小水疱
+++ 大水疱
IR 刺激反応
NT 施行せず

※紅斑〜毛細血管拡張などが原因で皮膚表面に発赤を伴った状態。
※浸潤〜次第に染み込んで拡がること。
※丘疹〜直径1cm以下の皮膚の隆起(発疹の分類の一つ)。

 

ICDRG基準の判定例

 

なお、パッチテストの判定は、本邦基準では「++」以上ICDRG基準では「+」以上“陽性”と判定します。

パッチテスト判定時の留意事項

偽陰性と偽陽性

パッチテストの反応には「偽陰性」「偽陽性」があり、その解釈は難しく十分な知識・経験が必要となります。

 

※「偽陽性」〜本来は陽性であるのに、誤って陰性と判定されるもの。
※「偽陰性」〜本来は陰性であるのに、誤って陽性と判定されるもの。

 

偽陽性の原因

偽陽性反応を示す主な原因は次のとおりです。

不適切な試料貼付方法による場合。
・近くで強い陽性を示したアレルゲンの影響を受けて、非特異的に陽性反応を示す場合。
・最近、皮膚炎を起こした部位にパッチテストを行ったことにより陽性反応を示す場合。

偽陰性の原因

逆に偽陰性反応を示す主な原因は次のとおりです。

不適切な試料貼付方法による場合。
ステロイド外用薬を使用していた部位にパッチテストを実施したことにより陰性を示す場合。

 

偽陽性?偽陰性?

 

これらの偽陽性偽陰性が疑われる結果が出た場合は、検査で陽性反応があったアレルゲンだけを抽出し、皮膚の健康状態や留意事項に該当する事項がないかを十分確認のうえ、再度パッチテストを行います。

 

その際、近隣のアレルゲンの影響が出ないようになるべくパッドの間隔を広くして検査します。

 

刺激反応との区別

パッチテストの判定で特に重要なことは、“アレルギー反応と刺激反応を区別する”ことです。

 

アレルギー反応の場合、通常、湿疹のような皮膚変化を起こしますが、刺激反応の場合で特に反応が強い場合化学熱傷(薬品などにより生じるやけど)のような皮膚変化を起こすので、ある程度区別することは容易です。

 

ところが刺激反応の弱い場合、アレルギー反応と同じような様相を呈することが多いため、アレルギー反応と区別することが難しくなります

 

そのような場合は、反応の出ているアレルゲンをいくつか濃度を変えて再度パッチテストをしたり、正常な人のパッチテスト反応と比較するなどして判定の参考にします。

 

問診の重要性

バッチテストにおける判定には、十分な知識や経験が必要であることはもちろんですが、さらに重要なことがあります。

 

それは、患者さんからの十分な“聞き取り”、いわゆる「問診」です。

 

事前の問診では、以下のような項目を聞き取ります。

・今回、皮疹(皮膚の変化)が現れた部位はどこか。
皮疹が現れたのはいつごろからか。
アレルギーの既往歴(これまでどんな病気にかかったか)
 例)アトピー性皮膚炎花粉症食物アレルギーなど
ピアスをしたことがあるか。
・何かに接触してかぶれたことがあるか。
 例)金属化粧品薬剤など
通院歴どちらの医療機関に、いつごろから、どんな薬をもらっていたか など)
・今回の皮疹の原因について、本人が疑っているアレルゲンは何か。

 

判定にはバッチテストの結果だけでなく、問診などにより患者さんの過去におけるアレルギーの既往発症経過なども加味し総合的に評価する必要があります。

 

問診票に記入
これらの問診は、患者さんから直接聞き取る方法や、「問診票」という形で書面に記入してもらう方法があります。

 

※アレルギー検査を行える専門の医療機関の場合、事前に問診票に記入してもらい、それに基づき医師が補足内容を聞き取る方法が一般的です。

 

判定結果の説明とアドバイス

テストの結果(判定)については、最終検査終了後に判定した医師から本人に直接伝えられます

 

具体的には、今回現れている皮疹の原因について、パッチテストの結果を踏まえてどのように判定したのか、特に陽性反応が現れたアレルゲンに対する評価や判定の決め手となった理由などについて説明されます。

 

また、状況に応じてパッチテストの再検査他のアレルギー検査受診の必要性などについても説明されます。

 

さらには、アレルギーの症状を回避または抑制するために普段から注意することなどについて、具体的にアドバイスをしてくれます。

 

検査結果の説明と指導

 

たとえば、患者さんが持参した物のうち、どれが用瀬反応であったか、それらの使用や接触を回避して生活するためのアドバイス、それに代わる代替品の紹介、そのアレルゲンが職業性の場合には、職場内での配置転換の必要性医療機関からの働きかけについてなど、さまざまな観点からのアドバイスが考えられます。

 

その際、もしも説明の内容に不明な点や不安な点などがあれば、自ら積極的に質問するようにしましょう。

 

バッチテストの費用

バッチテストの費用について、診療報酬(点数)と、実際の自己負担額(窓口で支払う金額)について調べてみました。

バッチテストの診療報酬点数

 

バッチテストの診療報酬点数については、皮内テストやプリックテストと同様、以下のとおりとなっています。

 

《検査料》
?21箇所以内の場合(1箇所につき)16点
A22箇所以上の場合(一連につき)350点

 

つまり、アレルゲンを貼付する箇所の数によって算定されることになります。

 

また、バッチテストに用いるアレルゲンの費用については、自ら持参した場合はもちろん診療報酬は発生しませんが、アレルゲンエキスなど市販の薬剤を用いる場合は「薬剤料」の診療報酬が別途加算されることになります。

 

なお、種類の異なるアレルゲンはもちろんですが、同じ種類のアレルゲンであっても濃度を変えた場合はそれぞれにつき1箇所とカウントされます。

 

バッチテストの自己負担額

バッチテストを受けた際の自己負担額(会計で支払う費用)はいったいどれくらいかかるのか、3つのケースについて解説します。

 

患者さんが持参した品物でテストする場合

患者さんが日常で使っているシャンプーや石鹸、化粧品などの生活用品にアレルゲンの疑いがあるため、持参した6つの品物で検査する場合は以下のとおりとなります。

 

検査料(皮内反応検査):6(箇所)×16(点)=96(点)
薬剤料:なし
初診料:288(点)
再診料:73(点)×3回(48時間後、72時間後、1週間後に診断した場合)=219(点)
合計 :96+288+219=603(点)

 

アレルゲンの特定ができないため、日本人がなりやすい主要なアレルゲンのセットで検査する場合

アレルギーの原因が特定できないような場合、「ジャパニーズスタンダード」と呼ばれる日本人における主要アレルゲン22種類を集めた「パッチテストパネル(S)」(佐藤製薬)を用いて検査した場合は以下のとおりとなります。

 

検査料(皮内反応検査):22箇所以上(一連)=350(点)
薬剤料:外薬用パッチテスト用アレルゲン類パッチテストパネル(S)(佐藤製薬)
2枚一組15,834.30(円)※薬価基準による
※点数に換算すると約1,583(点)
初診料:288(点)
再診料:73(点)×3回=219(点)
合計 :350+1,583+288+219=2,440(点)

 

金属アレルゲンセットによるパッチテストを行った場合