アレルギー検査の歴史
ところで、アレルギー検査はいつ頃から行われるようになったのでしょうか。
アレルギー検査の歴史は、言うまでもなくアレルギーそのものの研究の歴史と深くかかわっています。
アレルギーに関する最も古い記録としては、紀元前27世紀頃、エジプト第1王朝の始祖といわれるメネス王がアシナガバチかスズメバチに刺されて死亡したという古代エジプト象形文字の記述が壁画に残されていて、これはハチ毒によるアナフィラキシーショックの症例として人類史上最古のものと考えられています。
また、古代ギリシアの医学者として有名な“ヒポクラテス”は、紀元前4世紀頃に牛乳によって嘔吐、下痢、じんましんを起こすことなどの食物アレルギーに関する文書が残されています。
しかし、アレルギー研究が本格化するまでの長い間、“アレルギーという病気は万人に共通するものではなく、ごく一部の特異体質の者だけがかかる病気”として捉えられてきました。
アレルギーについての研究が本格化し始めたのは20世紀に入ってからで、アレルギーを調べるためのアレルギー検査が始まったのもその頃からです。
1921年、ドイツの細菌学者プラウスニッツ氏が、魚(タラ)を食べると30分以内にかゆみや赤い腫れが出るという知人のキュストナー氏の血清を同僚の皮膚に注射し、24時間後に同じ場所に魚のエキスを注射すると皮膚が腫れて赤くなること証明しました。
この生体実験によりアレルギー反応を実証することができたプラウスニッツ氏らは、この反応物質を“レアギン”と名付けました。
アレルギー検査のひとつである「プリックテスト」(皮膚にアレルゲンを1滴垂らし、針で皮膚を刺して反応をみる検査。スクラッチテスト、皮内テストも同様)は、この発表があった直後からがすでに始まったとされています。
しかし、もっとも大きなきっかけとなったのは、1966年、日本の免疫学者である石坂公成氏による“免疫グロブリンE(IgE)の発見”です。
石坂氏らは自ら研究を重ね、これまでにない新たな即時性アレルギー抗体とされる免疫グロブリンE(IgE)を発見したのです。
これを契機として、アレルギーのメカニズムの解明が飛躍的に進みました。
現在の特異的IgE抗体検査の原型はWide氏らによって開発され、1974年にファルマシア社(現ファディア社)から日常検査に利用可能な「ファデバスRASTキット」が発売されました。
その後キットはさまざまな改良を重ねながら、現在のイムファストチェックJ1(2004年)やイムノキャップ(2005年)、アラスタット3gAllergy(2013年)、マストイムノシステムズIV(2016年)、Viewアレルギー39(2016年)など、今日の検査キットの開発につながっています。
パッチテストは、1980年代から行われ始め、“遅発性アレルギー”、“遅延性アレルギー”と呼ばれるW型アレルギーの診断に有効とされ、金属や薬、化粧品などが原因とされる“接触皮膚炎”の原因アレルゲンを判断する際にも用いられます。
ヒスタミン遊離試験や好塩基球活性化試験は2000年代から実用化され、特異的IgE検査を補う検査として位置付けられ現在も重用されています。
抗原誘発検査のうち、食物経口負荷試験については意外と歴史が古く、1950年に食物アレルギー症状の関連を盲検法(ブラインド法)による食物経口負荷試験で確認する診断法が報告されていたという記録があります。
鼻誘発試験や点眼誘発試験については2000年代に入ってから行われるようになったものと思われます。